Hibariya

「パターン、Wiki、XP」を読んだ

6月26日に池袋のジュンク堂で開催された、新訳「エクストリームプログラミング」を記念した角さんと角谷さんによるトークセッション「XPは何を伝えたかったんだと思う?」へ行ってきた。最初に角谷さんが話していたとき、会場内で「パターン、Wiki、XP」をまだ読んでいないのは自分だけであるということが判明し、イベント後に購入して帰りの電車でさっそく読み始めたところ、みるみる引き込まれていった。読み終わった翌日にもう一度、こんどは好きな段落に目印をつけながら読んだ。

パターン、Wiki、XP

この本は「Wiki とは何か」という疑問から始まっている。そして、著者が Wiki 誕生の背景を知るために約半世紀前までさかのぼって調べた成果がまとめられている。3部構成で解説されているのは、クリストファー・アレグザンダーという一人の建築家の試みがソフトウェアの世界に影響を与え、それがデザインパターンや XP そして Wiki というかたちで「花開く」までの流れだ。

著者の江渡浩一郎さんはあとがきのはじめで次のように述べている。

著者はもともと Wiki の起源について調べようとしていました。Wiki は Web 上のシステムなので、1991 年の Web の誕生より前にさかのぼることはないだろうと思っていたのですが、調べていくうちにもっと昔の思想と深い関係があることがわかり、最終的には 1960 年代からの約半世紀にわたる歴史を調べることになりました。こんなにも昔の思想が形を変えて現在に影響を与えていることに驚きました。そして、この驚きを伝えたいと思い、本書を書きました。

「この驚きを伝えたい」という著者のねらい通り、読んでいる間は数ページめくる毎に新しい発見があって、最後のページまでそれが続いた。 ここまでのめり込めたのは、洗練された読みやすい文章のおかげでもあったと思う。 読み進めていくうちに、自分は今まで Wiki について知らなかったのだということが良く分かった。Wiki だけじゃない。パターン、Wiki、XP。それらに関連した色々、普段見聞きしてはいるがそのままにしておいた、でも少し気になっていたキーワードたちが次々と現れては互いにつながっていく。今まで知らなかった興味深い事実がぎっしりとつまっている。そして新たな疑問も生まれた。セミラティス構造、6つの原則、特に「無名の質」。

トークセッションでの出来事は思いもよらないことだったけど、結果的に「時を超えた創造の原則」について考えるための入口として良い本に巡り会えたと思う。この本は、アレグザンダーの試みに興味を持つきっかけと、新訳「エクストリームプログラミング」を読む前に XP の背景を知る機会を与えてくれた。角さんの話を聞いたこと、角谷さんに「来週までに読んでおくように」と言われることがなければ、こういうことは数年後まで起こらなかったのかもしれない (次の週に2時間くらいかけて感想を話した)。たまにちょっと遠くへ外出すると良いことがある。

(「パターン、Wiki、XP」の初版は 2009 年に発行された)